神戸地方裁判所 昭和54年(ワ)397号 判決 1981年9月17日
原告
協和興発株式会社
右代表者
模泰一
右訴訟代理人
清水賀一
外二名
被告
末野謙一
外二名
右被告ら訴訟代理人
川崎敏夫
主文
一 被告らは、原告に対し、金四三〇万円及びこれに対する昭和五四年四月二九日から支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を被告らの、その余を原告の各負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実《省略》
理由
一原告が兵庫県知事の免許を受けて宅地建物取引業を営む株式会社であること及び昭和五四年一月一九日、新栄興産を売主、被告らを買主として、本件不動産につき請求の原因4項記載のような内容の本件売買契約が締結され、右売買契約成立と同時に、被告らは、新栄興産に対し、売買代金の内金四三〇〇万円を支払い、本件不動産につき被告喬代を権利者とする所有権移転請求権仮登記を経由し、次いで同年三月二日、原告立会のもとに新栄興産に対し、残代金三億八七〇〇万円を支払い、本件不動産につき被告らが指名した末野興産株式会社に対する所有権移転登記を経由し、本件売買契約の履行が完了したことは、当事者間に争いがない。
二<証拠>を総合すれば、次の事実が認められる。
1 原告は、昭和五三年八月二六日、新栄興産から本件不動産を四億六〇〇〇万円で売却するよう仲介の委託を受け、本件不動産を不動産取引センターに登録し、有力な宅地建物取引業者に資料の送付をするなど本件不動産売却についての宣伝活動をしていたところ、同年一一月ころ、本件不動産の管理人である訴外阿波廣記から大阪土地建物が本件不動産の買受けを希望している旨の連絡を受けたので、そのころ、原告代表者及び原告の宅地建物取引主任者ら(以下「原告代表者ら」という。)が大阪土地建物の代表取締役である訴外足立武(以下「足立」という。)に会い、同人との間で本件不動産の売買の交渉を開始した。
2 大阪土地建物は、不動産の売買、賃貸及びこれらの斡旋等を目的として昭和五二年二月一五日に資本金一〇〇〇万円をもつて設立された会社で、登記簿上の本店は大阪市此花区酉島三丁目三番一六号に置いていたが、代表取締役の足立がかつて被告謙一のもとで働いたことがあつて同被告と親しかつたところから、同被告の肩書地所在の同被告の居宅の一部を借り受けて同所で営業活動を行い、被告ら所有の不動産の管理をしたり、被告らを金主とし、被告らの資金で被告らのために不動産の売買をすることが、その営業活動のかなりの部分を占めているものであるところ、昭和五三年一一月ころ、他の不動産業者が本件不動産の買取りを働きかけてきたことから本件不動産が売りに出ていることを知り、当時被告らから租税上の優遇措置を受けるために買替資産としての適当な不動産の物色を依頼されていたので(当時、大阪土地建物は、大阪府知事に対し、宅地建物取引業者の免許を申請していたが、いまだ免許は得ておらず、昭和五四年一月一八日になつて初めて有効期間を同年同月一九日から昭和五七年一月一八日までとする免許を得た。なお、足立は昭和五二年二月から宅地建物取引主任者の資格を有していた。)、被告らに本件不動産の買受けの打診をしたところ、被告らは買受けの意向を示した。そこで、足立が前記阿波に会い、本件不動産の買受の申入れをしたところ、前記のとおり同人がこれを原告に連絡し、原告と足立との間で本件不動産の売買の交渉が開始されるに至つた。その際、足立は、阿波に対し、税務上の都合で大阪土地建物の金主である被告ら個人の名義にすることになるかも知れないとはいつているが、大阪土地建物が買主であるとして買受けの申入れをしたので、阿波は前記のように大阪土地建物が本件建物を買いにきたと原告に連絡し、足立自身も大阪土地建物が買主であるとして原告代表者らと買受けの交渉をし、被告謙一が右交渉に初めて立会つた際にも、被告謙一を大阪土地建物の金主であると紹介し、交渉の席上で被告謙一を「会長」と呼んでいたので、原告代表者らは大阪土地建物から本件不動産買受けの仲介委託を受けたものと考えて交渉を進めていた(なお、原告が大阪土地建物から本件不動産買受けの仲介の委託を受けて仲介に努めていたことは、当事者間に争いがない。)。
3 右交渉にあたり、先ず買主側の足立及び被告謙一らから売買価格を四億二〇〇〇万円に下げるよう売主側と交渉してもらいたい旨の要望があつたので、原告代表者が新栄興産と売買価格の引下げを交渉した結果、新栄興産が四億三〇〇〇万円まで下げ、足立らは、なおも四億二〇〇〇万円まで引下げるよう交渉の継続を要望したが、原告代表者がこれを拒否したので、本件不動産の賃借人の賃借条件に関する資料等を要求し、これらの資料を検討し、その結果、昭和五三年一二月下旬ころ、新栄興産と大阪土地建物との間で本件不動産を四億三〇〇〇万円で売買する旨の合意がほぼ成立した。そこで、原告代表者は、新栄興産から同月二八日付の本件不動産を大阪土地建物へ四億三〇〇〇万円で売り渡すことを承諾する旨の承諾書の交付を受けた。ところが、その翌日ころ、被告謙一と足立の両名が原告の事務所を訪れ、買主を被告ら個人に変更したい旨申し出たため、原告代表者が新栄興産に買主変更についての諾否を尋ねたところ、新栄興産がこれを承諾したので、被告謙一は、本件不動産を新栄興産から四億三〇〇〇万円で買い受けることを承諾する旨の同月二九日付被告喬代名義の承諾書(この承諾書は、足立が被告喬代の住所氏名を書きその名下に大阪土地建物の代表取締役印を押捺して作成したものであるが、被告謙一は右作成に立会つてこれを承諾していた。)を原告に差し入れた。なお、右承諾書には「契約成立の上は貴社手数料のほか、諸経費を支払います。」との文言が印刷されている。
4 その後、原告代表者らが本件不動産の賃借人との契約関係の承継の条件等に関して新栄興産、被告ら双方と数回にわたつて接渉するなどして仲介に努めた結果、双方の間で売買の条件についての最終的な合意が成立し、昭和五四年一月一九日、前記争いのない契約条項を含む売買契約書(甲第四号証)が作成された。そして、右契約書には取引業者として原告代表者の記名押印及び原告の宅地建物取引主任者の署名押印があり(なお、右契約書には取引業者二名分の署名欄が設けられているが、一名分は余白のままで大阪土地建物の記名押印はされていない。)、その第九条第一項には、「此の取引を代理又は媒介した取引業者の報酬は別記記載の報酬規定によるものとする。」との文言、末葉には、報酬規定という標題のもとに、昭和四五年一〇月二三日建設省告示第一五五二号に基づき価格二〇〇万円以下について一〇〇分の五、二〇〇万円をこえ四〇〇万円以下の部分について一〇〇分の四、四〇〇万円をこえる部分について一〇〇分の三の報酬を売主、買主双方から各同額を契約成立の際半額、取引完了の際残額を申受ける旨の文言がそれぞれ記載されている。しかし、右条項は、右契約書作成の際に用いられた兵庫県宅地建物取引業協会作成の定型の契約書用紙に不動文字で印刷されていた文言であり、右条項が当然適用されるはずの新栄興産と原告との間では、右契約書作成前に既に本件売買契約の仲介報酬を一〇〇〇万円(右条項によれば一二九六万円となる。)とする旨の合意が成立していた(取引完了後、原告は右額の支払を受けている。)のに、右条項を排除するための措置はなんらとられておらず、また、原告と被告謙一間においても、右条項に基づいて報酬を支払う旨の具体的な話合いがされたことはなかつた。
5 右同日、新栄興産と被告らは本件不動産の賃借人との契約関係の承継等に関する覚書(甲第六号証)を作成しているが、右覚書にも原告だけが立会人として記名押印をしておりまた被告謙一は、同日、原告から宅地建物取引業法三五条の規定に従つて物件説明書に基づいて本件不動産の重要事項の説明を受け、これを証するために右物件説明書に被告喬代名義で記名押印をしている。
6 足立は、前記のような被告謙一との親密な関係から、当初被告らのために大阪土地建物名義で本件不動産を買い受けることを依頼されて新栄興産との間で本件不動産を四億三〇〇〇万円で買い受ける旨の一応の合意を成立させ、その後、被告らが直接買い受けることになつた後においても、被告謙一の依頼により契約内容の細部についてはそのまま決定までを任されて単独または被告謙一の立会のもとに原告と交渉をし、被告らの署名をも代行したが、前記のとおり昭和五四年一月一八日までは大阪土地建物が宅地建物取引業者の免許を有していなかつたこともあつて、原告に対して自己の立場を明確にしておらず、そのため、原告代表者らは、大阪土地建物は実質的には被告謙一の会社(被告謙一は大阪土地建物の役員ではなく株式も所有していない。)であると考えており、同人らには、仲介業者である大阪土地建物と相協力して本件不動産の売買の仲介をしているというような認識はなかつた。
7 前記末野興産株式会社は、被告らが本件不動産を所有させるために昭和五四年二月一九日に設立した会社であり、大阪土地建物は本件売買契約の取引終了後の同年三月三一日に右会社から本件不動産の売買手数料及び管理費という名目で一〇〇〇万円の支払を受けている。
右のような事実が認められる。
また、被告喬代、同エンが新栄興産から本件不動産を買い受けるについて、不動産仲介業者との仲介委託契約及び報酬契約の締結、新栄興産との売買契約の締結等の一切の代理権限を被告謙一に授与したことは、当事者間に争いがない。
以上の事実によれば、原告と被告ら間には、昭和五三年一二月二九日ころ、本件不動産の買受けに関する仲介委託契約が成立したものと認めるのが相当である。そして、前記のとおり新栄興産と被告ら間に本件売買契約が成立し、右売買契約に基づく取引が完了したことは当事者間に争いがない。
三そこで、進んで仲介報酬の額について検討する。
1 原告は、被告謙一が本人及び被告喬代、同エンの代理人として売買代金二〇〇万円以下について一〇〇分の五、二〇〇万円をこえ四〇〇万円以下の部分について一〇〇分の四、四〇〇万円をこえる部分について一〇〇分の三の割合による一二九六万円の仲介報酬を契約成立時に半額、取引完了の際に残額を支払う旨約したと主張するが、前認定のとおり、本件売買契約の契約書に記載された取引業者の報酬に関する条項は定型用紙に印刷されていた文言であり、この条項が当然適用されるはずの新栄興産との間では、右契約書作成前に本件売買契約の仲介報酬を一〇〇〇万円とする旨の合意が成立していたのに、右条項の適用を排除するための措置はなんらされておらず、また、原告と被告謙一との間で右条項に基づいて仲介報酬を支払う旨の具体的な話合いがされた事実もないので、右契約書の記載のみによつては原告と被告ら間に右条項どおりの報酬契約が成立したものとは認め難く、他に原告と被告ら間に本件売買契約についての具体的な仲介報酬額の合意が成立したことを認めるに足りる証拠はない。
しかしながら、原告は宅地建物取引業を営む株式会社であるから商法五〇二条一一号、四条一項の規定により商人であるというべきであるところ、前記認定の事実によれば、原告は新栄興産のためだけではなく、被告らのためにする意思をもつて本件売買契約の仲介行為をし、原告の右仲介によつて本件売買契約が成立したものと認めるのが相当であるから、原告は、被告らに対し、同法五一二条に基づいて相当の仲介報酬請求権を有するものというべきである。
2 なお、被告らは、原告に対しては本件売買契約の仲介報酬を支払わない旨の特約が成立している旨主張するが、<反証排斥略>。
3 ところで、宅地建物取引業者が受取るへき報酬についての特約がない場合には、宅地建物業者は、宅地建物取引業法四六条及びこれに基づく昭和四五年建設省告示第一五五二号によつて計算した最高額を当然に請求しうるものではなく、仲介業者の貢献度すなわち仲介の難易、仲介行為の内容、程度、期間、労力等と取引額その他諸般の事情を考慮し、客観的に相当と認められる金額のみを請求しうるものと解するのが相当であるところ、大阪土地建物は昭和五四年一月一八日までは宅地建物の売買等の代理もしくは媒介を業として行いうる立場にはなく、原告においても大阪土地建物と共同して本件不動産の売買の仲介をしているという認識はなかつたけれども、大阪土地建物の代表取締役である足立の活動が本件売買の交渉開始の端初となつており、その後の交渉においても宅地建物取引主任者の資格を有する足立が被告らの代理人に近い立場で活動をしたことが本件売買契約の成立に相当程度寄与しており、このような足立の活動があつたためでもあるが、原告には売主側である新栄興産に近い立場で仲介活動に従事したという面も認められること、前認定のように取引額が四億三〇〇〇万円という高額であるが一か月余という比較的短い期間で契約が成立していること、その他本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、原告が被告らに対して請求しうる仲介報酬の額は四三〇万円と認めるのが相当である。
四以上述べたところによれば、被告らは、原告に対し、四三〇万円及びこれに対する本件売買契約成立の日の後である昭和五四年四月二九日から支払ずみに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余は失当として棄却すべきである。
よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(笠井昇)
物件目録<省略>